3: 観察法

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(公開日:2020年4月28日)

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はっきり言って遊びなので (^^;),帯域少ない人は無理に聞く必要ありませんよ。

はじめに

ここでは,心理学研究法の中でもっとも基本的な人間研究の方法である「観察法」を紹介します。

遠藤(2004)は,「観察」って,どちらも「みる」と読む「観る」と「察る」の2つの漢字からできているけど,前者は「丹念にじっくりとよく見る」という意味があり,後者は「何かに覆われて判然としないものを,詳しく調べて,その本質を推し量る(察する)」という意味がある。つまり,観察とは単に「見る」ということじゃないよ~とおっしゃっています。では,観察法にはどんな方法があるのでしょうか。

科学的な手法としての観察法にはさまざまな手法があるのですが,それはいくつかの観点から分類することができます。

  • まず,観察する対象にどれだけ手を加えるかという観点から,観察法は「自然観察法」と「実験観察法」に分かれます。
  • また,観察場面で起きている現象をどのように選び取るかという観点から,観察法は「日誌法」と呼ばれる方法と「見本法」に分けられます。さらに見本法には,「場面見本法」,「事象見本法」,「時間見本法」などの方法があります。
  • 観察した結果をどのように記述(記録)するかという観点からの分類もあって,「行動描写法」,「行動目録法」(カテゴリー・チェック法),「評定尺度法」などが知られています。

今日の授業は,これらを紹介しながら,観察法の全体像を見ていきたいと思います。

自然観察法と実験観察法

自然観察法」とは,文字通り,観察者が観察対象である状況に対して,何も手を加えずに,そこに自然に生起してくる行動をありのままに把握しようとする方法です。この自然観察法は,行動観察の基本ではあるのですが,日常場面で生起頻度が少ない行動(なかなか見られない行動)をとらえたいと思うならば,観察者はその現場にずっと張りついていなくてはなりません。

それに対して,「実験観察法」は,目的とする行動が現れやすい状況を実験的に作り上げる方法です。観察法に,実験と言う手法を導入することで,なかなか見られない行動を引き出しやすくなりますし,実験室という場面で行うことで,いろいろな偶発的な要因を統制することができます。しかし,短所として,実験操作を加えることによって日常の行動と乖離した(離れてしまった)不自然な状況を引き起こしてしまうこともあります。このような状態を,科学では生態学的妥当性が低いと言います(難しい言葉ですね)。「生態学的妥当性」とは,実験に用いる刺激や実験状況が,その生物が通常生活する環境に照らし合わせたときに意味のあるものになっているかという概念です。

ここでひとつ,実験観察法を使った有名な実験を見てみましょう。

ストレンジ・シチュエーション法(実験観察法の例)

乳幼児が発達する過程において重視される「愛着(アタッチメント)」という概念があります。母親に代表される養育者と子どもとの間の情緒的な結びつきである愛着は,乳幼児の心の発達に重要な役割をもち,その後の人間関係のもち方や人間そのものに対する基本的信頼感,子どもの社会性の発達などに大きな影響を及ぼすことが知られています。

心理学で愛着といえば必ず出てくる有名な研究者にボウルビィ(Bowlby, J.)というイギリスの児童精神医学の研究者がいます。彼は,第二次世界大戦で親を亡くし乳児院や孤児院で育つ子どもに身体的・精神的な発達の遅れや問題が多いことに注目し,「母性剥奪(マターナル・デプリベーション)」の問題を提唱しました。幼いころに子どもが養育者との間に愛着という情緒的な絆が築けないと,後の発達にも大きな影響があるのです。現在では,児童虐待や養育者との離別などが原因となって「愛着障害」と呼ばれる対人関係や社会性の問題に発展しやすいことがわかり,さまざまな研究がなされています。

さて,では,この愛着という結びつきをどうやったら測定することができるでしょうか。愛着といえば次に出てくる有名人物はおそらくエインズワース(Ainsworth, M.)という人物で,彼女はボウルビィの教え子であり,赤ちゃんの行動観察と実験を組み合わせた「ストレンジ・シチュエーション法(strange situation method)」を開発したのです。ちなみに,今年3月の比治山大学大学院(臨床心理学専攻)の英語の問題は,このストレンジ・シチュエーション法に関する英語での説明文(Allen, 2013)が使われていたんですよ。その試験問題から,どんな方法が使われたかを紹介しましょう。

  1. まず,赤ちゃんとお母さんはおもちゃと椅子が置いてある部屋に入ります。その部屋は,赤ちゃんにとっては初めての場所ですが,まぁ居心地のいい部屋だそうです。
  2. 赤ちゃんにはおもちゃで遊んでもらいます。お母さんも必要に応じて遊びに関わります。
  3. そこに知らない人(ストレンジャー)が入ってきて,赤ちゃんと遊ぼうとします。
  4.  その後,お母さんが部屋を出ていきます。赤ちゃんは知らない人とおもちゃと一緒に残されます。(1回目の母子分離)
  5. お母さんが戻ってきます。それと同時に知らない人は部屋を出ていきます。(1回目の母子再会)
  6. お母さんがまた赤ちゃんを一人部屋に残して出ていきます。(2回目の母子分離)
  7. そこに知らない人が戻ってきて,赤ちゃんと関わろうとします。
  8. その後,お母さんが戻ってきて,入れ替わりに知らない人は部屋を出ていきます。(2回目の母子再会)

さて,どんな実験観察かイメージできましたか? 英語のビデオですが,YouTubeに実験シーンがあったので見てみましょう。


The Strange Situation – Mary Ainsworth (YouTube)

この実験的観察によって,エインズワースは,赤ちゃんの行動は以下の3つのタイプに分かれることを見出しました。これが「愛着スタイル」と呼ばれるもので,大人になっても人間関係やその人の生き方に影響を及ぼすことが知られるようになったものです(現在では4分類モデルも有名です)。

  • 安定型
    • 母子分離時に多少泣いたり混乱を示しますが,お母さんと再会すると積極的にお母さんに接近してかかわりを求め,すぐに安定します。
  • 回避型
    • 母子分離時に泣いたり混乱したりすることがほとんどありません。お母さんと再会してもむしろお母さんを避けるような行動が認められることがあります。
  • アンビバレント型葛藤型
    • 母子分離時に強い不安や混乱を示します。お母さんと再会したときには,接触を求める一方で,お母さんに怒りや抵抗も示します。

このように,観察法といっても,単に自然な状態の人間行動を観察するだけでなく,心理学では対象者に実験的な操作を組織的に加えることで,研究を行うことも多いわけです。

現象選択(サンプリング)の方法

心理学は科学(心の理学)なので,何事もデータに基づいて話をします。でも,データで話をすれば何でも正確に物事がわかるかというとそうではありません。たとえば,マスク1枚の値段っていくらくらいするか,今調べるのと,昨年調べたものとでは,まったく違った結果になりますよね。データをどの時点で取り出すか,どの場所で取り出すか,誰を対象にするかなどを問題にするとき,「サンプリング(sampling)」という用語を使います。サンプリングは,たくさんいる人々(母集団)の中からサンプル(研究対象者)を「抽出する」ことと訳されることも多いのですが,観察法では行動現象の「見本」(サンプル)を選択するという意味で「見本法」と訳します。

観察法における見本法

  • 日誌法
    • 行動観察では,観察対象となる人にできるだけ長い時間張りついて観察し,そこで見られたエピソードやふるまいをちょうど日誌をつけるように書き留める方法が使われることがあります。みなさんが発達心理学を習うとき,必ずピアジェ(Piaget, J.)という研究者が見出した子どもの「4つの発達段階」という認知発達理論を覚える(私も試験前に丸覚えした… ^^;)ことになるはずですが,ピアジェさんのこの理論も,もとをたどれば彼自身の子どもの観察記録によってつくられたと聞いたことがあります。日誌法は,日常における観察記録としてはよく使われる方法ですが,人間のことですから,どうしても目立つところに注意が向いてしまったり,先入観をもって事象をとらえてしまいがちだったりするという欠点があることは知っておきましょう。
  • 時間見本法
    • 日誌法みたいにダラダラ観察するんじゃなくて,きっちりと時間を決めて観察しようや~というのが,「時間見本法」です。時間見本法では,観察する時間帯をあらかじめ決めて,一定時間ごとに生じた行動を逐一記録して集計します。例えば,子どもの授業中の行動を10分間観察するのに,10秒ごと60回にわけて,それぞれで「A: 先生の話を聞いている」「B: ノートを取っている」「C: 授業と関係ない活動をしている」の3つに分類することで,子どもがどの程度授業に集中しているかを調べるなんてやり方ですね。この例のように,単位時間ごとの行動を,カテゴリーに分類してデータ化する方法は「カテゴリー・チェック法」と呼ばれ,観察法において行動を数値的に定量化する方法としてよく使われます。
  • 場面見本法
    • 例えば,小さな子ども同士がどのようにやり取りをするのかを調べたいと思うと,時間を決めてサンプリングするよりも,子ども同士が触れ合う場所(場面)をサンプリングするのが効果的でしょう。だから,このような目的をもつならば,家での行動を観察するのではなく,幼稚園や学校といった特定の「場面」が観察対象として選択されます。場面見本法とは,観察したい出来事や行動が生起しやすい場面を選んで観察を行う方法です。
  • 事象見本法
    • 研究においては,上の場面を選択する方法よりももっと特定の行動に注目したいときがあります。私が学生時代にお手伝いしたことのある研究では,子ども同士がいざこざ(けんか)を始めたとき,何歳くらいから「もう~けんかやめようよ~」と仲裁する立場の子どもが出てくるだろうかという研究がありました。その観察では,私たち観察者は,保育園や小学校の自由遊びの時間をボケーと眺めているのですが,子どもたちの中にいざこざが始まると「さぁはじめるぞ~」と観察体制に入ります。このように,特定の見たい出来事や行動が生じたときを観察対象とする方法を「事象見本法」といいます。

現象を記述する方法

観察法では,記録の取り方にもいくつかの方法がありますので,それもお伝えします。別名がいろいろあって面倒ですが…上のサンプリングのやり方と記録の取り方にはある程度関連性があったりします。

  • 行動描写法逸話記録法エピソード記録法
    • 行動描写法とは,誰がいつ誰に何をどうしたというような逸話(エピソード)的な出来事を,時間軸に沿って直接的に記述していく方法です。こうやって書かれたものは当然「日誌」のようになりますから,上の日誌法では,この手のやり方がよくとられます。この方法は,観察記録の取り方としては誰でも考えつく方法なので,ついやりがちですが,記録にも手間がかかりますし,不要なデータも一緒に蓄積されていくので,さあ分析しようという段階になって,データの整理で困ることが多いので気をつけなければなりません。しかし,ずっと後で紹介する「質的研究」という研究法では,好んでこのやり方を使う研究者もたくさんいます。
  • カテゴリー・チェック法行動目録法
    • 上の時間見本法のところで出てきたように,時間見本法と一緒に使われることが多いのがカテゴリー・チェック法です。この方法では,研究目的に沿って,あらかじめいくつかの行動カテゴリーを設定しておき,ある時点での行動がそのどれにあてはまるかをチェックしていきます。行動という曖昧なものを数値化して分析することができるのが利点ですが,選択肢となる行動カテゴリーを前もってどれだけ適切に設定できるかが重要です(これがうまくできていないと現場で大混乱します ← よくあること)。
  • 評定尺度法
    • 評定尺度法は,あらかじめ設定した行動特性や対象者の態度などを「評定尺度」という5段階くらいの物差しの上で得点化する方法です。上で例に出した「いざこざ」研究でも,いざこざがとりあえず終了したときの子ども同士の雰囲気や親密性を,「非常に良い」-「非常に悪い」の5段階で評価するなどによって,仲裁者の存在がどのような効果をもつかを検討するなんていう使い方ができます。

確かな観察データを得るために必要なこと

観察法では,どうしても人間が人間を観察することになるので,観察者バイアス(「バイアス」とは「偏り」のこと)の影響を受けることがあります。まず,観察者=研究者ということもよくあるのですが,観察者が研究の目的や仮説(「こういう結果が得られるだろう」という予測)に関する知識をもっていると,それによって特定の行動の間に関連があるはずだという思い込みを生み出したりして,観察結果をゆがめることがあります。

また,人間というものは,よく見知った対象者にはついつい有利で寛大な評価をしてしまう傾向にあります(寛大効果)。その一方で,自分の性格や価値観とは異なる特徴をもっている対象者に対しては,実際よりもシビアに評価することがあります(対比効果)。学生さんが授業を受けていると,講義をしている教授が自分のよく知っている学生には甘くて,茶髪や派手な格好の学生にはキビシイなんていう悲しい現場を目にすることがあるかもしれません(私はそうなりたくないけど…)。観察データにも,人間のもつこのような傾向が影響する可能性があるわけです。

他にも,対人認知において「光背効果(ハロー効果)」という現象が知られていて,人は,何かを評価するときに,対象のどこかに好ましい(あるいは好ましくない)特徴を認めると,それによって他の特徴まで同様に好ましい(好ましくない)と評価してしまう傾向があります。このような傾向も,観察者バイアスとなって結果をゆがめることがあることを知っておく必要があります。

このように,観察者も人間なので,観察者バイアスの影響を完全になくすことはありません。そこで,一般に観察法を行う研究では,同じ対象者を複数の観察者が観察します。また,時間見本法とカテゴリー・チェック法を組み合わせて観察データを取るような場合でしたら,10秒ごと60回に分けて10分間,子どもの行動を「A: 先生の話を聞いている」「B: ノートを取っている」「C: 授業と関係ない活動をしている」の3分類で記録したなら,2人の観察者のデータで60個中何個が一致しているかの比率(一致数/60)を求めて,それを「一致率」と呼び,信頼性をチェックする指標とします。

心理学では,人間の心や行動という一見曖昧なものを研究対象としてデータを収集するので,後の授業で詳しく述べますが,得られたデータの「妥当性」,「信頼性」,「客観性」という3つをきちんと確認・保証することに力を入れます。観察データでも,単に一致率を求めるだけでなく,コーエンのカッパ係数(Cohen’s κ)といって,観察者がでたらめに反応しても偶然一致する割合なども考慮しながら信頼性を測る指標なども開発されています。

観察者と観察対象者の関係

大学生が保育園や幼稚園に行くと,子どもたちがワラワラと寄ってきて「何しに来たん」「どこから来たん」と尋ねてきます。観察者は無色透明ではないので,その存在自体が対象者に影響を及ぼすことがしばしばあります。大学教授のような年齢のいった人間と学生のような若者では,与える影響も異なります。観察者と観察対象者の関係性という点からも,観察法にはいくつかの分類があるので,それを最後に紹介しておきます。

  • 非参加観察
    • 子どもの臨床心理面接などでは,遊戯室と呼ばれるおもちゃのある部屋で遊んでいる子どもを,観察者がマジックミラー越しに観察することがあります。最近では遠隔操作が可能なカメラを用いた観察も行われます。このような観察は「非参加観察」と呼ばれ,観察者が観察対象者に与える影響は最小限にすることができます…が,そんな観察環境を準備するのは簡単ではないですし,そのような特別な部屋を使うことで,観察対象にできる子どもの行動が限られてしまうという制約が生じる場合もありますから,簡単ではありません。
  • 非交流的参加観察消極的参加観察
    • 現場でよくみられる観察法が,この非交流的参加観察です。観察者はどうしても自分の姿を対象者にさらしながら観察を行います。「観察者たるもの,自分を壁だと思え」なんていう臭い言葉もありますが,観察対象者とは交流をもたず,あくまでも消極的な態度で観察行為を行うというのがよくある観察者の姿です。
  • 交流的参加観察
    • 交流的参加観察とは,例えば,子どもの観察において,観察者が遊び相手として子どもと一緒に自然にかかわりながら,その関係性の内側から子どもを観察するような方法です。第三者的な視点からは見ることのできない当事者としての自身の体験を通して観察ができる点がメリットですが,その一方で,観察者バイアスによる観察の誤りが生じる危険性が高くなることを考慮しておく必要があります。
  • アクション・リサーチ
    • 特定の個人や集団に対して,観察者(=研究者)が積極的に現象の引き起こし手となって活動しながら,そこに生じる変化の過程を観察・記述する方法です。現場における課題に対して,変化を引き起こすためのプランを立てて,それに沿って実践を行い,評価・改善を試みるというようなやり方を取ります。私のゼミでやっている活動では,例えば小さな子どもから90歳くらいのお年寄りまで集まるような地域の子ども食堂で,どうすれば子どもと高齢者の交流を生じさせることができるかというようなテーマで,ちょっとしたゲームコーナーをやったりしてイベントを活性化させるなんていう試みをしたり,引きこもりがちの発達障害をもつ子どもがまた来たいと思うような内容で発達支援を行うなどのアクションを仕掛けています(実際の対面授業ができれば,ぜひ,このような活動の様子をお見せしたいと思います)。

 

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引用文献

  • Allen, J. G. (2013). Restoring Mentalizing in Attachment Relationships. Arlington: American Psychiatric Association.
  • 遠藤 利彦(2004).観察法 高野 陽太郎・岡 隆(編) 心理学研究法―心を見つめる科学のまなざし― 有斐閣アルマ pp. 212-235.