13: 質的研究とフィールドワーク

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(公開日:2020年7月10日)

フィールドワークとは

フィールドワーク」とは,文字通りに言えば,調べようとする出来事が起きている「現場」(フィールド)に身を置いて調査などの「作業」(ワーク)を行うことです。…と書きながら,「現場」と「作業」で ネットをイメージ検索したら下のイメージがトップに出てきたのですが,みなさんが想像するフィールドワークって,どんなイメージでしょうか? (^^)

フィールドワークは,もともとは文化人類学における主要な研究法です。文化人類学では,しばしば「エスノグラフィー」(ethnography)という調査手法が用いられます。この「エスノグラフィー」という言葉は,ギリシャ語の「ethnos」(エスノス:民族)と「graphein」(グラペイン:記述)から派生した英語で,「民族誌」あるいは「民族誌学」と訳されます。この手法では,調査者自らが,フィールドに身を置き,目で見て,耳で聞き,手で触れ,肌で感じ,舌で味わった生の体験に基づく調査を行います。

フィールドワーク研究の例

心理学におけるフィールドワークもたくさんあって,私自身も最近は自分を「なんちゃってフィールドワーカー」だと言っているのですが,典型的なフィールドワーク研究の多くは文化人類学的な視点から,文化人類学と同様の手法,つまりエスノグラフィーによって行われます。

例えば,三重県の鳥羽市には,答志島という島があって,そこには一定年齢に達した男子が自分の家を離れて,世話をしてくれる大人の家で一緒に寝泊まりをする「寝屋子」(ねやこ)という制度があるそうで,鳥羽市の無形民俗文化財に指定されています。原則として長男は,中学を卒業すると 世話をしてくれる「寝屋親」を見つけ,結婚して独立するまでその家で夜を過ごすそうです。詳しくは次のリンクを見てみてください(鳥羽図巻:寝屋子制度)。この制度,いつから始まったのか,何のために始まったのかもわからないそうなのですが,この不思議なしきたりは島の若者たちにごく自然に受け入れられて,島の人々の絆を深めているそうです。広島で昔からフィールドワークをやっている安田女子大の澤田さんというかたがいて,彼は,この島に入り込んで寝屋子制度という文化と青年期発達の研究をしています(澤田,2014)。

文化人類学的研究においては,対象となるのは,私たちと異なる「文化」をもつ人々であって,その文化の特徴や,日常的な行動様式を詳細に記述することが研究の中心となります。しかしながら,最近では,エスノグラフィーというと,ビジネス分野においてそれを応用する試みも(かなり)目立つようになってきました。

どんなビジネスにおいても,商品やサービスを企画する際には,対象となる消費者(ユーザーグループ)への理解を深めて,そこにある潜在的なニーズを探る必要があります。例えば,50代の女性をターゲットとした化粧品を開発するとしましょう。この新商品開発にエスノグラフィーを応用するならば,次のようなやり方が考えられます。

まず,あなた自身が,50代女性のグループに弟子入りさせてもらうんです。そして,彼女らと日常生活を共にしながら,「普段どんな雑誌を読んでいるのか?」「どんなファッションに身を包んでいるのか?」「どんな話題を好んで,どんな会話をしているのか?」を,実際に自分自身の体感を通して経験させてもらいます。こうして,ターゲットユーザーである50代女性の思考や好みを共感的に理解することによって,自分たちが開発する化粧品が,彼女らのどのような日常シーンで,どのような相手と過ごすときに,どのように使われるのかをイメージして,それを開発に活かすのです。

…なんていうと,おもしろいことができそうな気がしませんか?

フィールドワークは,そのための現場作業でもあるのです。

 

フィールドワークの方法

フィールドワークの方法を,これまでにお話した研究法にあてはめれば「参加観察法」ということになります。参加観察では,調査者(観察者)自身が,調査対象となっている集団の生活に参加し,その一員としての役割を演じながら,そこに生起する事象を多角的に,長期にわたり観察します。つまり,観察者自身が内部の一員として体験した意識内容を記録して,生態学的妥当性の高い現象把握をめざす研究方法なのです。

参加する場合は,深い参加にするか,浅い参加にするかは重要なポイントになります。「深い参加」を行う場合,それは一般的に「交流的参加観察」と呼ばれる方法になります。そこでは,観察者が対象者と何らかのやり取りをしながら観察します。「浅い参加」のほうは「非交流的参加観察」と呼ばれ,観察者が現場から一歩距離をおくことで,より自然な観察を行うことを重視します。どちらがいいか悪いかではなく,研究目的に照らして望ましい方法を選択する必要がありますが,伝統的にフィールドワーク研究では,交流的参加観察を行う研究者が多いように思います。なぜならば,フィールドワークを行う利点が,研究者自身が研究対象となる人々や事象を身をもって知ることにあり,それは対象者と関わらずには得られない体験であるからだと思われます。

また,フィールドワークは参加観察が中心になりますが,それ以外の観察法や 面接法インタビュー)も,その時々で用いられます(このようなやり方を「マルチメソッド」といいます)。寝屋子についても,例えば以下のリンクに,ご自身もかつての寝屋子であり寝屋親である島民の語りが掲載されていますが,このような資料を得ることも研究の一部となるわけです(椙山女学園大学:寝屋子と寝屋親を体験した漁師のはなし)。

 

フィールドワークのプロセス(過程)

通常の心理学研究では,明らかにしたい心理現象が先にあって,それに適した対象者のサンプリングや研究方法の選択が行われます。それに対して,フィールドワークでは,明らかにしたい対象者や集団が先にあって,その中で明らかにしたい現象に適した研究方法がその都度選択されるのが特徴です。

澤田・南(2001)によれば,フィールドワーク研究はおおよそ以下のようなプロセスからなるそうですので,簡単に紹介しましょう。

事前準備

フィールドワークは現場で行う研究ですが,事前の資料収集や文献調査が必要でないわけではありません。受け入れ側は,フィールドに関して何も知らずに参入してくる研究者について,いぶかしく思い,敬遠することがありますので,事前調査は不可欠です。

フィールドエントリー

フィールドエントリーとは,よそ者である研究者が,対象者に受け入れられていく過程です。その過程では,研究者は,単に対象集団に溶け込んでいくわけではなく,なんらかの役割やポジションを得ながら落ち着いていくのが一般的であり,その役割によって,得られる情報が影響されることも多いため,重要な過程といえます。

全体観察

フィールドワークの初期段階において,フィールド・エントリーと並行して,フィールドの全体像をつかむことも重要です。特に,最初に目にする現場の光景は何もかもが新鮮に映りますが,その環境になじむ前に全体を観察することによって,研究者自身がなじんだ環境との異同が浮き立ってきます。

インフォーマント(情報提供者)からの情報収集とラポール形成

フィールドワークでは,その対象となるフィールド全般に詳しい人や,特定の領域に詳しい人から聞き取りを行うのが一般的です。このような対象者を「インフォーマント」と呼びます。情報の質や信憑性においてインフォーマントの選定は重要な意味をもちますし,心理学的研究においては,対象者の思いや考えを知ることが重要ですので,インフォーマントとの打ち解けた信頼関係(ラポール)の形成も大きな意味をもちます。

記録(フィールドノーツ)

フィールドワークにおける記録は「フィールドノーツ」と呼ばれます。フィールドノーツは,現地で見聞きしたことについてのメモや記録であり,日誌法的に記録されるのが一般的です。いつ,どこで,だれが,何を,どのようにしたのか,それはなぜなのかなど,得られた語りについては,言葉や表現を忠実に文字化することが記録としては重要です。近年は,ビデオカメラやスマートフォンなどで録画・録音が容易に行えますが,これらの道具は,使えなかったり,使わない方がよい場合も多くあります。しかしながら,映像を対象者と一緒に視聴することで,対象者から説明が加えられて行動の意味が明らかになることもあり,豊富な資料採取につながることもあるそうです。

焦点化した観察・面接

心理学においては,単に人々の生活や行動を記録するだけでなく,そこで暮らす人々がいだく考えや思いなども資料として収集することが重要になります。そこで,フィールドワークにおいては,参加観察によって得られた資料に加えて,研究目的に照らして,深く突っ込んで明らかにしたい事柄や現象にターゲットを絞って,そこに焦点化した観察や面接を行うこともしばしば行われます。

 

質的データと質的分析

実験法や調査法で収集されるデータの多くが,数字や数量で表現された「量的データ」であるのに対して,フィールドワークで得られるデータは,観察記録,フィールドノーツ,面接記録,写真,ビデオなどであり,その多くは数値によらない形式で表現されたデータです。このような量的に表せないデータを「質的データ」といいます。フィールドワークだけでなく,言語的なやり取りで行われる面接法においても,収集されるデータは質的データとなりますが,科学における研究行為では,他者が参照できて批判的に吟味可能なデータを提示することが求められるため,質的データであっても,客観的な基準からの評価可能な分析が求められます。

量的データの分析では,測定された変数間の相関関係(あるいはさらに因果関係)を明らかにするのが分析の基本ですが,それに対する,質的データの分析においては,得られたデータ・資料を基に,(a) 内容の解釈(データ項目の意味を読み取ること),(b) 分類(似たデータ項目を集めること),(c) 類型化(タイプや様式によってデータ項目を分けること),(d) 概念化(データ項目の背景にある共通の性質を取り出して名前をつけること)などの作業が行われます。

ここでは,代表的な質的データ分析法として,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチをご紹介しておきます。

KJ法

KJ法」は,人類学や地理学などの野外科学で得られたデータをまとめるために,川喜田二郎が提唱した方法で,彼のイニシャルをとって,KJ法と呼ばれます。彼は,フィールドワークで収集された膨大な量の情報を,カードを使ってまとめていく方法を考えました。この方法は, 集団(グループ)による共同的な発想(ブレインストーミング)を促すための方法として頻繁に用いられるので,みなさんもこれまでにやったことがあるのではないでしょうか(付箋紙に1枚ずつアイデアなどを書き出して,それをボードに張りつけて,分類して…という作業をやった覚えがありますよね)。

KJ法は,以下の4つのステップからなります。

  • 1. カードの作成
    • 1つのデータを1枚のカードにラベルとして要約して記述します。
  • 2. グループ編成
    • 数多くのカードの中から似通ったものをいくつかのグループにまとめ,それぞれのグループに見出し(表札)をつけます。
  • 3. 図解化(この段階を「KJ法A型」と呼ぶことがあります)
    • グループ間の関係が明らかになるような空間配置,図解化を行います。
  • 4. 叙述化(この段階を「KJ法B型」と呼ぶことがあります)
    • 3の図解を基にした叙述化(文章化,言語化)を行います。

このKJ法は,理論的というよりは,記述的な性格をもつ分析法です。

グラウンデッド・セオリー・アプローチ(Grounded Theory Approach, GTA)

Glaser & Strauss(1967)が提唱した「データ対話型理論」(grounded theory)による分析手法です。具体的にはいくつかの方法があるそうですが,わかりやすく言えば,「データに根ざして(grounded)」,「概念をつくり」,「概念同士の関係性をみつけて」,「理論を生成する方法」といわれます。

以下に一般的な方法をメモしておきます(私自身,よくわかっていませんが… ^^;)。

  • 1.文章化,データ化,読み込み
    • インタビューや観察から得られた結果を,文章化されたデータとして用意します。
  • 2 .スライシング(切片化)
    • 採集した文章を細かく分断します。文脈から切り離すことによって,分析者が言語データから距離をとるためだそうです。
  • 3 .オープン・コーディング
    • スライシングした文章の各部分のみを読み,内容を適切に表現する簡潔な「ラベル」をつけます。
    • 次に,似たラベル同士を集め,ラベルの上位概念となる「カテゴリー」名をつけていきます。
  • 4.軸足コーディング(アクシャル・コーディング)
    • オープン・コーディングでつけた「カテゴリー」と複数の「サブカテゴリー」を関連づけて,現象を表現していきます(サブカテゴリーとは,現象について,いつ,どこで,どんなふうに,なぜなどを説明するものだそうです)。
  • 5 .選択的コーディング(セレクティブ・コーディング)
    • アクシャル・コーディングでつくった現象を集め、カテゴリー同士を関係づけます。これが,対象となった現象全体を説明する「理論」になります。

誤解をおそれず,いろいろな情報をまとめてできるだけわかりやすく書いたつもりでも,よくわからない記述になりました。ごめんなさい。

 

澤田・南(2001)によれば,どんな質的分析手法を用いたところで,それらはあいまいさを残すものなので,量的研究の分析法と比べれば,分析の結果出される結論の正しさを判別する基準がはっきりとしないという不満や不安はぬぐえないものだそうです。彼らは,同様のケースとして裁判の行われる法廷を例として示しています。法廷での裁定には,必ず,事実関係の確定とその根拠となる証拠の提出が求められます。質的研究も同じであって,事実を裏づけるデータの提示が不可欠です。しかしながら,どちらのケースも,現場における状況の把握や理解にあたっては,その事実を受け止める人間による解釈を避けることはできません。このようなケースで,事実が主観的なバイアスによって歪められないためには,事態に関与する複数の人々や,専門的な訓練を積んだエキスパートによる吟味や討議を何度も経ていく手続きによるしかないと考えられます。そこで,質的研究の分析においては,カンファレンスのような場で解釈について議論したり,経験を積んだ指導者や上級者からの助言スーパーバイズ)を受けたりなどの共同作業が必要になります。実際,質的データをもっとも頻繁に扱う臨床心理学では,面接法で得られた質的データの解釈において,カンファレンスにおける議論や 専門家によるスーパーバイズを重視する伝統をもっています。これも,このような背景があるからでしょうね。

 

おわりに

余談ですが,私は知覚・認知心理学が専門で,実験法を使って,人の認知機能を測定するのを得意としています。だから,(前回の面接法もですが)質的研究なんてやったことがないので,授業ページを作るのに苦労しました (^^;)。でも,そんな私も,この10年くらいの研究では,医療福祉教育産業の現場(フィールド)での実践(ワーク)を行っているのです。

私の研究のアプローチは,調査を目的とするフィールドワークよりも,どちらかといえば「アクションリサーチ」という手法に近いものです。アクションリサーチとは,「社会におけるさまざまな問題に対して,小集団での基礎的研究でそのメカニズムを解明し,得られた知見を社会生活に還元して現状を改善することを目的とした実践的研究」とか「実践家と研究者が協力して,社会生活の改善の理論や方法を具体的に推し進めながら開発するやり方。人間関係の調節や改善集団活動の効果技術導入による有効性を対象とする」 などと紹介されています。

 

例えば,下のビデオは6年くらい前,私たちが重症心身障害児の療育を行っておられる施設で子どもたちにかかわり始めたころのビデオ記録です。この施設にいる子どもたちは障害や難病のために体が不自由で,自分で動き回ったり,積み木で遊んだりすることができません。また,多くは神経系の障害によるので,言葉が出ない子どももたくさんいます。言葉がなく,積み木ももてないと,どの程度,心が発達しているかを調べる方法もありません。この施設は,障害をもつ子どもの幼稚園のような機能をもっているので,施設では絵本の読み聞かせが行われています。でも,読み聞かせをする療育スタッフのかたたちも,子どもがどの程度,絵本を理解して聞いてくれているのかがわからないのです。そこで,私たちのゼミでは,絵本の読み聞かせをおこなっているときの子どもの視線を調べてあげる活動を始めました。「目は心の窓」 なんて俗に言いますが,視線の動きを調べると,子どもの心の中が覗けるのですよ (^^)。

どうぞビデオを見てみてください。

 

絵本を見る中で,ぞうくんやかばくん,わにくんの顔(特に目のあたり)を子どもが交互に見ているのがわかるでしょうか。コミュニケーションを行う二者関係を見るときの一般的な視線行動です。また,自閉症の子どもは反射的に目を見る傾向が少ないのですが,この子の視線をみると,自閉症の傾向はないと思われます。また小さなかめくんも見ているので,この程度の大きさのものが見える視力があることもわかります。このような手がかりが視線を調べることでわかるのですね。

ここでやっていることは,我々認知心理学を専門にしている実験屋にとっては当たり前にできることであって,これが心理学において何か新たな発見をもたらすようなことはありませんが,施設で支援にあたっている療育スタッフの方たちや,何よりも子どものお母様にとっては大きな発見となります(実際,こうやって視線を見ることで子どもさんが絵本を読んでいることがわかったお母様が,「うちにある絵本,古いのばかりなので,今日は新しいのを買って帰ります!」と元気におっしゃったりします)。このように,言葉のない子どもの心の内面を調べることによって,施設に子どもの発達を支援するための資料を提供するだけでなく,お母様の発達観や教育観にもいい影響を与えられないかと思って活動しています。

 

上では300万円以上していた,高価な視線を調べる実験機材でしたが,最近では,1~2万円のゲーム用のセンサでも同じことができるようになったので,重症児が自宅でも遊んだり勉強したりできるようにしてあげています。下のビデオは,4歳の重症児が 生まれてはじめて視線で遊んだところです。画面の真ん中に地球があって,周囲からたくさん隕石がやってきます。でも,隕石を見ると,それを撃ってやっつけることができるというゲームです。

それではビデオをご覧ください。

(お子様の名前が録音されていますが,それも含めてビデオの公開について了承をいただいています)

 

現場には,施設の療育スタッフと私たちに加えて,子どものお母様とお姉ちゃんも来られていました。このビデオの中の,現場にいる人たち全員の口から思わずこぼれていた言葉に気づきましたか?

「すごい,すごい,すごい!」という言葉です。

何がすごいのでしょうか? 私たちがやっていることがすごいわけではありません。だって,私の口からも「すごい」って何度もこぼれてますものね (^^;)。すごいのは,このゲームをやっている子どもなのですね。ゲームを始める前は,「うちの子にゲームなんて」とおっしゃっていたお母様からも「すごい」が連発しています。子どもがもつ可能性を発見した瞬間です。

このとき,もうひとつうれしいことがありました。このゲームが終わった後,小学生のお姉ちゃんも「ゲームがしたい!」と言い出したのですが,次の子どもの療育時間が迫っていたので,「また,今度ね」と断らなきゃならなかったのです。そのとき,お姉ちゃんが,妹さんに「Sちゃん,うらやましー」って何度も言っていたのです。周囲から「すごい」とか,「うらやましい」とか言われる経験は非常に重要な経験であって,それによって,人は自尊心が育ちます。障害をもつ この妹さんにとって,お姉ちゃんにはじめてうらやましいと言われた経験は,大切な宝物になったんじゃないかなと思います。

人を支援する方法って「カウンセリング」だけじゃないのですよ。こんな方法もあるのですね。

 

社会の現場(フィールド)に出てみると,そこにはさまざまな課題・問題が山積しています。その中で,心理学がもっている知識やスキルを活かすことで,解決できたり,改善に向けられることはたくさんあるのですよ。

「公認心理師」という国家資格ができて3年,それまでの「臨床心理士」は,心理学のたくさんある専門領域のうちのひとつである「臨床心理学」がつくった資格でした。だから,臨床心理士さんは,臨床心理学の実践家として活躍していたのですね。その代表が「カウンセラー」です。でも,公認心理師は,心理学の中の一領域の資格ではありません。というよりもむしろ,心理学の外に出て,多職種連携の中で活躍するための資格なのですよ。

だから,「臨床心理士」の実習が,各大学の中にある「心理相談室」のような臨床心理学の人たちで作った小さな相談室で行われていたのに対して,「公認心理師」の実習は,「医療」,「福祉」,「教育」,「司法・犯罪」,「産業・労働」という5つの領域で行うようになっているのです。しかも,これらの領域は「心理学」のホームグラウンドではありません。「医療」は,医師や看護師(保健師),理学療法士,作業療法士,言語聴覚士ほかたくさんの医療職の人たちが中心になって働く現場です。「福祉」は,社会福祉士,介護福祉士,精神保健福祉士,など福祉領域の人々が活躍する現場です。「教育」も教員免許をもつ人たちが中心ですし,「司法・犯罪」も法律の専門家や警察官など公務員の現場です。「産業・労働」分野も経済の原理を中心に動いていますので,心理の領域ではありません。

というわけで,「公認心理師」が働く現場は,すべてアウェーの現場なのですね。だから,その中で私たちは存在感を出して,活動していかなければなりません。

 

今日お話しした「フィールドワーク」は,心理の中ではおそらくもっともマイナーな研究方法のひとつなのですが,心理学が外の現場でどのように役立つかを実践しようとするとき,基本となる研究法であり,学ぶところは大きいのです。

心理学という学問自体,きわめて広い領域をもつので,心理学の中にいるだけですべてわかったつもりになっている人が多いのですが,みなさんには,ぜひ,心理学の外に出かけて行って,そこにはどのような課題や問題があるのかを自分自身の身をもって知り,その解決のために心理学には…自分には…何ができるのかを本気で考え,実践力を身につけるような学びをしてほしいなと思います。

長くなっちゃいました。お疲れさまでした。

 

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引用文献

  • Glaser, B., & Strauss, A. (1967). The Discovery of Grounded Theory: Strategies for Qualitative Research. Mill Valley, CA: Sociology Press.
  • 澤田 英三(2014).三重県答志島の青年宿・寝屋子制度と青年期発達に関する基礎的資料 安田女子大学紀要,42,91-99.
  • 澤田 英三・南 博文(2001).質的調査―観察・面接・フィールドワーク― 南風原 朝和・市川伸一・下山晴彦(編) 心理学研究法入門―調査・実験から実践まで―(pp. 19-62) 東京大学出版会