陰影による奥行き形状の知覚
(shape from shading)
- 我々人間は,3次元の広がりをもつ外界を,網膜に投影された2次元の網膜像に基づいて知覚しています。3次元空間の知覚においては,この失われた奥行きの次元を復元するために,いろいろな奥行き手がかりが用いられます。ここで取り上げる「陰影(shading)」はその手がかりの1つです。例えば,図1を見ると,我々は,四角の壁面に円形の凸状の突起や凹状の窪みを知覚することができます。
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図1.陰影による凹凸の知覚
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- 陰影から奥行き形状を知覚するとき,何を手がかりに,我々はそのパターンが凸状であるか凹状であるかを区別しているのでしょうか? 図2は,図1の壁面中央を正面から見たものですが,円形パターンの上部が明るくて下部が暗いものは凸状に知覚され,反対に上部が暗くて下部が明るいパターンは凹状に知覚されやすいことがわかります。
- さらに,図2(B)は,図2(A)の画像を単に上下逆さに呈示したものですが,明暗のパターンが逆さになると,凹凸の知覚も反転してしまうことがわかるでしょう。不思議ですね。
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(A)
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(B)
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図2.陰影パターンによる凹凸知覚の反転
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- CG(コンピュータ・グラフィックス)では,コンピュータの中に仮想の3次元空間を設けて対象物を置き,光源とカメラの位置や属性を決めることによって,カメラにどのような2次元の映像が写るかという光学(optics)をシミュレートします。それに対し,人間の脳は,網膜に投影された2次元像から,それをもたらした3次元の空間構造を再現するという「逆光学(inverse optics)」の課題をやっています。しかし,奥行きを失った2次元のデータから3次元のデータを復元することは,数学的にいうと,一義に解を求めることのできない不能問題となります。ですから,脳は,ある仮説に基づいてその問題を解こうとするわけです。
- 我々が生活する世界では,通常,光は上方からやってきます。そこで,脳は,「光源は上方にあるに違いない」という仮説を置きます。上方に光源があれば,図3に示すように,凸状の表面は上部が明るく,凹状の表面は下部が明るくなります。したがって,上部が明るければ凸,下部が明るければ凹状の表面が知覚されるというわけですね。
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図3.上方光源における陰影のでき方
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- 下にあるAVIファイルは,図2に示したような陰影パターンを作り出す構成要素である壁面(対象)と光源を,それぞれ視軸を中心に回転させて,どのように見えるかを観察するものです。これによって,光源位置の変化による凹凸知覚の反転を体験することができるでしょう。
観察のポイント
- 例えば,“RotAll.avi”のムービーで,どのくらいの角度に回転したときに奥行きの反転が起こるでしょうか。注意深く観察してみましょう。
- 図2のような静止した陰影パターンを,図版はそのままで,自分の顔の方を逆さにして見てみましょう。奥行きはどうなりますか。また,この観察結果はどのようなことを意味しているのでしょうか。
AVIファイルのダウンロード
付記
- このデモは,平成10年度〜平成11年度科学研究費補助金(基盤研究(C)-(2),研究代表者:吉田弘司,課題名:「顔認識処理の初期過程に関する研究」,課題番号:10610091)の補助を受け,その研究の一部の成果発表用に作成されたものです。また,AVIファイルは,日本基礎心理学会第18回大会(1999年10月,於聖心女子大学)のAVプレゼンテーション(吉田弘司・永山ルツ子 「Hollow Face錯視における顔テクスチャおよび光源位置の効果」)で使用したものを改変したものです。
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